KDDI班 研究プロジェクト成果報告 要旨
- takeyamalab2023
- 2023年10月5日
- 読了時間: 4分
2017年に研究された4つのプロジェクトのうちの1つである、株式会社KDDI との研究成果を報告いたします。

産学連携プロジェクト研究要旨
【父親と子供のふれあいを促す、リテールサービスのデザイン】
武山政直研究会
阿部航介 内山奈月 眞勢瑛礼奈 由木尚允 津軽健介 岡島穂乃香
1. 概要
本研究は、慶應義塾大学経済学部武山政直研究会と株式会社KDDI総合研究所との共同研究プロ ジェクトとして実施されたものであり、父親の育児参加を支援するリテールサービスを企画し、その有効性 を評価することを目的とする。
2. 背景と目的
日本では、仕事が忙しく子供と触れ合う時間が充分にとれない父親が数多く存在する。また、子供との 触れ合い自体にネガティブな意識を持っている父親も多い。さらに、「イクメン」という流行語が象徴するよ うに、育児に積極的な父親は依然例外的に認識されている。 このような背景を踏まえ、本研究では「父親と子供のふれあいを促すリテールサービス」の可能性を探 る。研究の遂行にあたり、2016年度に慶應義塾大学経済学部武山政直研究会と株式会社KDDI総合研 究所が実施した「IoTを活用した新規リテールサービスのコンセプト設計」の研究成果を活用しながら、 ユーザー参加型のデザイン手法を用いて、店舗と通信技術を活用したリテールサービスを企画し、その プロトタイピングを通じて有効性を確認する。
3. 方法
「父親と子供のふれあいを促すリテールサービス」をテーマとして、以下の1~5のプロセスに従ってプ ロジェクトを実施し、サービスの企画提案とその有効性の検証を行った。
1デスクリサーチ 2エクストリームパパに対するデプスインタビュー 3ユーザー参加型のデザイン手法 4新規リテールサービスのプロトタイピング
3.1 デスクリサーチ
現状の一般的な父親像/家族像の調査を行った。一世代前の父親には、頑固で威厳のある一家の大 黒柱というイメージがあったのに対して、子供と対等な関係を築く柔和なイメージを持った存在へと大きく 変化しつつある。
このリサーチを通して、一般的な父親像は時代の流れに沿って変化しているものの、依然として男性と 仕事の結びつきが強固であるため、「育児をする母親と仕事をする父親」という社会的な構造自体は変化 しておらず、大きな問題であり続けていることが改めて整理された。
3.2 エクストリームパパに対するデプスインタビュー
現状の家族の問題点を踏まえて、育児に積極的に参加し、子供や妻と良い関係性を築くことができて いる父親=エクストリームパパ数名にデプスインタビューを行った。その結果に基づき、「自分のための時 間」と「子供のための時間」を上手に組み合わせることで、父親は子供と理想的に触れ合うことができるの ではないかという仮説を立てた。また、父親が良い家族関係を築くために、子供との触れ合い以上に、母 親に対する気遣いを重視していることもわかった。
3.3 ユーザー参加型のデザイン手法
フィールドワークの結果を踏まえ、父親にとっての理想的な子供との関わり方を探るため、3組の家族と 2度のワークショップを行った。 ワークショップの構築の際、「参加者」「共創」の2点に焦点をあてた。父親だけでなく母親と子供の参加 も促すことで、家族全体にとって良い影響をもたらすサービス作りを目指した。また、サービスのアイディ アを参加者にも考えてもらうことで、ユーザー目線の気づきや発想を生み出すようにした。
3.4 新規リテールサービスのプロトタイピング 以上のリサーチ結果・ワークショップ結果とKDDI 社の事業資産に基づいて、家族に対してクエスト形式 の体験とそれに必要なグッズ・デバイスを提供するサービスを企画した。
サービスコンセプトをもとに、課題を選定し、実際に店舗を作り込みながらサービス全体の設計を行っ た。具体的には実店舗の一部スペースにて、アジャイル型開発手法を用い、分解・再構築を繰り返し店 舗の作り込みを行った。子供と過ごす休日に課題意識を持つ父親のサービスの利用ジャーニーをウォー クスルー法に基づいたストーリーボードを作成し、サービスが実現した時の様子が想像できるよ うにした。
4. 成果
本研究で得られた成果は、父子の関わりを促すリテールサービスについて提案を行い、その有効性を 検証したことである。特にサービスデザインの手法を用いることで、今日にあまり普及していない価値の検 証を慎重に行うことができた。また、研究の過程のインタビュー調査やサービスの事例調査を通じて、家 族関係・父子関係をめぐる動向、また今後の人々の暮らしに関する動向が明らかになった。
5. 参考文献 浜屋祐子, 中原淳 (2017)『育児は仕事の役に立つ 「ワンオペ育児」から「チーム育児」へ』光文社新書
