M班研究プロジェクト成果報告 要旨

2017年に研究された４つのプロジェクトのうちの１つである、M社との研究成果を報告いたします。

産学連携プロジェクト研究要旨【2030 年における、街が自分の家になる未来のスマートコミュニティーの構想】

武山政直研究会

赤座綾子 鈴木亮也 韮澤真人 北浦俊　東ケ崎美帆　奥村美南

1. 研究の狙い 本研究のテーマは「2030 年における、街が自分の家になる未来のスマートコミュニティーの構想」

である。現代に見られる未来の兆候から、2030 年頃には人の生活が土地や企業などに固定されず流 動的になると想定し、そのような社会において都市がどのような役割を果たすことができるのか、またどのようなサービスが必要とされるのかを考察した。また、研究手法においては「未来都市洞察手法」という新しい手法を考案し、用いた。

2.背景と目的

近年のテクノロジーの発展によって、オンラインショッピング、プロの料理のデリバリー、映画や音楽のストリーミング、オフィスへのテレワークなどのように、様々な都市の機能やサービスを 家庭にいながら享受できるようになる傾向がある。しかし、このように人々が家の中で何もかも享受できる未来は高い利便性による幸せをもたらす と同時に、街へ出る機会を失うことで、人が他者との繋がりを持つ等の幸せを失ってしまう可能性 もある。そこで、本研究は、未来洞察とスペキュラティブ・デザインの手法を応用して考案した「未 来都市洞察手法」という新たな手法を通じて、家の輪郭が街へと拡大し街で暮らす未来像を構想し、2030 年の都市生活とそれを支えるサービスを企画することに焦点を当てた。

3.未来都市洞察手法

未来都市洞察手法とは、2030 年の未来生活において、住居やオフィスといった特定の場所に結びついて行われている様々な活動が、その制約を離れ、街へと解き放たれることで新たな価値を得る 世界をスペキュレーションし、その状況において、人々の街での活動がどのように変化していくの か構想するための手法である。その手法は、4つの「活動を街に出す価値」と 15 個の「未来の兆 し」を「未来生活想像ワークシート」と組み合わせることで未来都市の発想を促すことを特徴とする。「活動を街に解き放つ価値」については、人々が普段家の中でしている活動を街の中で行うこと に成功しているサービスを探し出し、本研究の問題意識を踏まえて、人々が街の中で行動する価値 を抜き出した。その結果は、「街の環境が行為の価値を高める」「街の環境が挑戦するハードルを下 げる」「仲間と感動・活動の共有をする」「自分を必要としている場所がある」の 4 つである。次に「未来の兆し」についてであるが、これは社会や暮らしの大きな質的変化の兆候となる事象 に関するニュース記事をテーマごとにクラスタリングして、「自分のスキルや経験の一部を簡単に活 かせるようになる」、「高度なスキルの習得に簡単にアクセスできる」、「自分好みのモノを作る(多数より個人に向けたモノが価値を持つ)」といった内容の 15 種の仮説としてまとめたものである。 以上に述べた「活動を街に出す価値」4 つと「未来の兆し」15 個という 2 つの要素を使って未来 生活想像ワークシートを設計した。本ワークシートを用いた未来生活想像ワークの手順は以下の通りである。

1「未来の兆し」15 個の中から選んだ兆しと、その兆しに沿った今現在の私たちが感じている欲求 を掛け合わせることで、「2030 年の生活者の欲求」を出す。

2「2030 年の生活者の欲求」に「活動を街に出す価値」4 つから選んだ価値を掛け合わせることで、2030 年の生活者の生活がどのように変化したのかを想像する。 このワークを行ったワークシートを集めることで、未来都市の変化を想像する。

4.サービスコンセプトの設計 実際に大学生と社会人を対象に、未来都市洞察手法を用いて 2030 年の生活シーンを発想するデザインワークを実施し、その結果の中から「今現状のサービスにないもの」「面白そうなもの」を基 準として選び、グルーピングを行った。その結果、1「街が想像のきっかけとなることで人の行動 を歓喜する」、2「街を生活者が創ることで街との一体感を得る文化を作っていく」、3「家族やパ ートナーの定義が広がることで精神的な支えとなる人が増える」という、未来都市の姿を構想する ための3つの視点を導くことができた。これらの視点と、さらにリンダ・グラットンの著書「LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略」で指摘されている人生100年時代に無形資産の重要性が高まると いう主張も踏まえて、「住民の声からプロジェクトが発信される街」という未来都市のサービスコン セプトを考案した。

参考文献 ・「LIFE SHIFT 100 年時代の人生戦略」リンダ・グラットン/アンドリュー・スコット著・池村千 秋訳(東洋経済新報社、2016 年) ・「本当に住んで幸せな街 全国「官能都市」ランキング」島原 万丈+HOME`S 総研著( 光文社新 書、2016 年)